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【 巡りゆく命 】  


「いらっしゃい!外は寒かったろ?温かい番茶出すから適当にかけてておくれ!」
「ありがとうございます、女将さん」

 忙しなく店内で客の応対をする女将にそう言って微笑んだのはルディ・バークレオだった。店の外は雪が降る直前の曇天。確かに息が白くなるほど寒かったが、女将の大らかな笑顔を見ると少しだけ心が温まるような気がした。
 どこに座ろうかと店内を見回せば、決して広くは無いものの様々な客の顔が見えた。

 仕事帰りの大工の男。
 やつれた様子の遊女。
 まだ傷が新しい侍。
 そして幼子を連れた母――。

 噴花が収まってしばらく経った今、ルディはマホロバの各地を見て回っておりこのような光景も度々目にしてきた。世界樹・扶桑に近い地域であればあるほど、噴花の影響を色濃く受けていた。多くの者が命を失い、そして……多くの新たな命が与えられた。
 赤子や幼子を連れた親子を見る度、彼女は想うのだった。

(あの方は……無事に転生を果たすことができたのでしょうか)

 最期に満足そうに笑って逝った彼を想えば、今でも胸を締め付けられる感覚がする。――否、彼は元々とうの昔に死んでいるのだから「逝った」という表現は正しくないかもしれない。彼が何であるかを知った時から、そう遠くない内に別れがあることはわかっていたのだ。
 それでも、彼と共に過ごしたわずかな時間、彼のために何かしたかった。彼女なりにできる限りの努力はしたが、未だに「自分には何ができただろう」と悩むことも多い。それを確かめる術も、もはや存在するはずも無いが――。

(生きなくてはなりませんから、私は)

 ただその想いが、今のルディを支えていた。滲み出そうになる寂しさは双眸に隠し、視線を上げて空いている席を探そうとした時――。

「――あら……?」

 その視界に、流れる緑髪を捉えた。

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