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【 序 】  


 夢のような時間だった。
 霞がかった夢。朧気な記憶。失ったはずの熱に浮かされる錯覚。

 全ては夢だったのだ。
 この目を開けば全て、何事も無く醒める夢。
 泡沫の夢、都合のいい幻に過ぎないとわかっていた。
 わかっていて委ねた。
 何もわからなくなるその寸前まで、その熱に縋りついていた記憶がある。

(手放したく、無かった……――)

 手放せば再び失うこともわかっていた。
 何もかもわかっていた事であるのに、どうしようもなかった。
 あの熱が既にこの手の内に無いことは感覚でわかる。
 あとは目を開けて現実に戻ってしまうだけで、全ては夢と消える。

(わかっている。わかっている、から)

 ――どうかあと少しだけ、夢を見させてほしい……

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